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一般社団法人 日本産業カウンセラー協会東京支部
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広報部

職場・テレワークで生かせるマインドフルネス

【連載】職場・テレワークで生かせるマインドフルネス
第1回:コロナ下でこそ必要なマインドフルネス

2021.12.06 kouhou

コロナの影響が長引き、働き方も変わると言われる今、心と体をどのようにコントロールし整えるか、私たち一人ひとりがとても難しい問題に直面しています。こんなとき取り入れたい「マインドフルネス」について、シニア産業カウンセラーであり臨床心理士でもある大澤昇先生に2回にわたりご解説いただきます。

だいぶ収まってきたとはいえ、コロナの猛威と私たちの苦しみはまだまだ続くと思われます。特にここ2年のコロナ状況下でストレスが溜まりに溜まり、女性や子供という一番弱い人たちにそのしわ寄せが押し寄せています。生活に窮した若い女性の自殺率が大幅にアップし、子供たちの不登校が激増しているデータに悲惨な状況が見て取れます。テレワークやオンライン授業が増え、家族の距離や密度が近くなり過ぎたが故のイライラや不安の増加もその背景にあるのでしょう。今後の何年か何十年か、否応なくコロナとの共生を考えざるを得ないと思われます。

長丁場になるコロナ対応で必要なのは、取るべき対策はしっかり取った上で、必要以上の余計な心配はなるべくしないことです。しかし、いくら頭でそうしようと意図してもなかなかうまくいきません。トラウマ理論が盛んになっていますが、この間のコロナパンデミックは社会全体がトラウマに遭遇したとも考えられます。トラウマは脳の中の一番古い層=脳幹や大脳辺縁系に刻み込まれるので、大脳皮質=理性=認知では対応が難しいのです。トラウマ・カウンセリングの基本は、安全基地の確保と身体からのアプローチですが、コロナ対応にも当然当てはまります。

そこで、一番効果的だと考えられるのが、身体からのアプローチがメインになるマインドフルネスです。

マインドフルネスの定義は「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれの無い状態で、ただ観ること」。ポイントは、取り戻せない過去への後悔とやって来ないかもしれない未来への不安に行きがちな心に翻弄されないために、今ここでの体験に意識的意図的に焦点を当て続けること。そしてその際反応として表れてくる思考や感情をジャッジせず、ひたすら観察すること。つまり仏教心理学でいう、「私=悩む人」ではなく、「私=悩みを観察する人」という説明が分かりやすいです。必要のない過剰な心配事から解放されて、今ここをクリエイティブに楽しく生きる道が開けるのです。

まずはマインドフルネスの基礎ワークです。

椅子に楽に坐って呼吸に意識を集中します。だんだんとお腹が呼吸と一体となる感覚を意識するとうまくいきます。最初は雑念が出てくるけれど全然OK。座禅と違って、雑念をなくそう、無になろうとしてはいけません。むしろ雑念大歓迎です。

<マインドフルネス瞑想法>

1)床、または椅子に坐る(背筋を伸ばし、肩の力を抜く)目は閉じてもよい。
2)呼吸にあわせて、お腹がふくらんだり、へこんだりするのを意識し、腹部に意識を集中する。自分の呼吸の 波乗りをしているように、呼吸のすべての瞬間に意識を集中する。
3)呼吸から意識が離れたことに気づいたら、その度に注意をそらせたものは何かを確認し、ジャッジしないで、静かに腹部に意識を戻し、呼吸を感じる。どんなことに気をとられても、何度でも注意を呼吸に戻す。

雑念に気づくトレーニングでもあるので、雑念大歓迎。どんな雑念が飛び出してくるか? よーく見てみよう。ただし気づいた時点でジャッジしないで、すぐにお腹のふくらみ、へこみの身体感覚に戻ります。

マインドフルネスの基本は、呼吸に意識を向け続けることですが、別に呼吸でなくてもいいのです。身体の動きでもいいし、自分の内部の音でも外部の音でもいい。今ここでの体験に意識を向け続けることで、さまよい荒れ狂いがちな思考や感情を鎮める、または心を見つめることで問題と距離を取ることが目的だからです。心が騒がしすぎたり、怒りやイライラなど強い感情がある場合、呼吸に意識を向け続けるのはなかなか難しいでしょう。そんな時は体の動きに意識を向けるほうがうまくいくことが多いです。テレワークや職場での仕事の合間に一息つきたい場合も、この動くマインドフルネスが効果を発揮します。

<振り子瞑想>

1)最初に軽く身体をストレッチするなど、準備体操を行なう(数分)。
2)足幅を肩幅に正面を向いて立ち、両手は体側に自然に垂らす。
3)この状態で身体を左右に振り子のようにゆっくりと揺らす。
※股関節をゆるめ、左右への揺れにあわせて、軽く膝を曲げる。
※その場で歩いているような感じで身体を左右に振る。
4)重心の変化とともに変化する身体感覚に意識を集中しよう。
5)左に揺らせたときに心の中で「左」、
右に揺らせたときには心の中で「右」と、つぶやく

もしも雑念にとらわれていることに気づいたら、マインドフルネスの基本通りジャッジしないで、元の動きと「右、左」をつぶやくのに戻ります。

コロナ下の今の不安定な時代こそ、安全基地が重要になってきます。安全で守られていると実感できる場、居場所があること。これは、どんなストレスや症状にも当てはまりますが、特にコロナ・トラウマを体験している今の私たちには絶対的に必要です。コロナのせいで世界が安全でなく脅威に満ちている、と感じながら不安と苦しみの中で生きているわけですから。

安全基地の作り方ですが、まず第一に、自分の外部に安全基地を作ること。例えば、一人用テント、押し入れの中、屋根裏部屋、車の中、図書館だっていい。もちろん、自然の中、お寺や神社の境内、星や海を眺められる取っておきの場所などなど。

第二に、自分の中に安全基地を作ること。これには、マインドフルネスが一番です。安全基地はキョロキョロふわふわさまようのが得意な心で作るのは難しいからです。大地に根を張るように身体に安心軸を作る必要があります。

第三に関係性での安全基地。信頼できる家族、友人、恋人。カウンセリングの場は当然重要な安全基地です。その条件としては、まずは安全を保障してもらえる場であること。共感してもらえる場であること。求めた時にすぐに応じてもらえること。対応に一貫性、安定性があること。何でも本音が話せること。それらが重要なポイントとなるのは言うまでもありません。

そして、第四に無形の安全基地。これは、哲学や信念、宗教、祈りや瞑想。思い出などです。マインドフルネスは仏教をベースにしているので、実践していることが無形の安全基地にもつながります。ちなみに、私の信念は、「人間皆ちょぼちょぼ」「人生8勝7敗がちょうどいい」「諸行無常」です。もちろん、そのベースになっているのはマインドフルネスです。

※次回連載へ続く(2022年2月更新予定)

<文>
グロービス経営大学院大学講師 シニア産業カウンセラー 臨床心理士
大澤 昇

 

 

【大澤昇先生の著書紹介】
『心理臨床実習』『心理臨床実習ストレスマネジメント篇』『やすらぎのスペース・セラピー心と体の痛みがあなたを成長させる』