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一般社団法人 日本産業カウンセラー協会東京支部
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相乗効果!カウンセリング×アンガーマネジメント 活用のヒント(連載第4回)

2019.08.09 kouhou

~『怒る上司のトリセツ』著者/宮本剛志さん インタビュー(連載第4回)~

2019年2月に当協会支部のシニア産業カウンセラー宮本剛志さんが本を出版しました。そのタイトルは『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)。

カウンセラーとして、研修講師として、働く人のメンタルヘルス支援に関わる宮本さんが考えるカウンセリングにおけるアンガーマネジメントの活用とは。

ご自身の経験を交えた怒りとの向き合い方や書籍出版に対する思いについても、お話を伺いました。全6回の連載でお届けいたします。今回は第4回目です。(第3回はこちら

■あの人が怒っているのはあなたのせいじゃない、あなたとは関係ない

本の出版後、読者から「あの人が怒っているのはあなたのせいじゃない。あなたとは関係ないと書いてある一文に救われた」とう感想を多くいただいています。

悩んでいる人は、真面目な人や誠実な人で、必要以上に自分を責めたりします。真面目な人ほど「自分に非がある」と思いやすい。「一生懸命関わっているのに、どうして相手は怒っているのか」と。気が付いたら炎上させてしまい、その後に一生懸命説明しても言い訳としてしか捉えられないということもあります。

そのすれ違いが起こる原因は、一つは相手をしっかりと観察していないことが考えられます。そもそも怒るということは、振り上げた拳みたいなものなのですね。クレームでもそうですが、怒っている最中にだんだんと自分が間違えていることに気が付いてくることもあるし、「少し言い過ぎたかな」と思うこともあります。でも、拳を振り上げている時に「あなたそれ違いますよ」と言ったら、相手のプライドとか感情とかに火を点けてしまうだけです。

ですから、そこを一回受け止め、鎮静化したところで説明した方が良いですよと。間違いや誤解を解きたいと思い、いきなり口早に説明するのは逆効果です。

ただ、こんなことは誰からも教わらないので、本を読んでいただいて、「こんなやり方もあるのか」「自分にもこんな場面が起こりやすいな」と思えるものを探して、試してもらうのも良いと思います。

カウンセリングの中でも「理不尽に怒る人にどう関われば良いか」と悩む人が多いため、このような対処方法の一部を紹介することがあります。この本を手元に置いてもらい、何かの時にパラっとめくってみてもらえたらと思います。

学び方には“体験しながら”という方法もありますが、あらかじめ知っておいた方が安心して体験に繋げられる人もいます。人それぞれ違います。マニュアルがないと一歩を踏み込めない人に、「マニュアルなしで乗り越えなさい」と言っても、ハードだと思います。

「その人にとって今大事なことはなんだろう」ということに、私たちのような支援する立場の人間は関わっていければ良いと思います。

産業カウンセラーの養成講座で出てくる「カウンセリングのプロセス」は、リレーションづくりをベースとした大事なことだと思います。リレーション構築は、今悩んでいたり困っていたりしている大事なところに関わることです。

まずはクライエントと信頼関係を作り、クライエントの今の課題を聴いていると、背景に他の問題が見えることがあります。根本の問題はいずれ関わる必要がありますが、いきなりぶつけても、タイミングが合わないこともあります。その時は一度保留にして、タイミングを見て関わることが基本的なことだと思います。

ですから、「カウンセリングのプロセス」は問題把握の段階なのか、目標設定の段階なのかを見極めるという点で、大変役立ちます。

今回の本の中でも「傾聴」や「見立て」などの用語も入れていますが、表現はできるだけ分かりやすくしました。傾聴は相手の気持ちを理解する時も大事だし、相手の怒りを受け止める時にも大事ですから。

■表面に出ている怒りは氷山の一角

アンガーマネジメントを学んで、怒りにはいろいろな種類があることを理解できたのは私にとって大きな収穫です。表面に出ている怒りは氷山の一角で、本当は「もっと分かってほしい」という気持ちなどが隠れていることが少なくありません(※)

クレーム対応の研修で、ただ「共感しなさい」と教えても、「どうやってやるのか分からないから困っているのに」ということもあります。その時は、「氷山の水面下にある感情を受け止めなさいということですよ」と言うと、受講者にとてもよく伝わります。

例えば、部下に何度も指示しているのに、間違うと「何やっているんだ!」と怒ることがあります。でも、よく考えると「大丈夫かな?」という心配な気持ちや、「自分の指示を無視しているのではないか?」と不安な気持ちが生まれることがあります。そのような感情が怒りとして表現されることもあります。表面上と本当の気持ちは違うことがあると分かるのは勉強になりますし、自己理解にも繋がりますね。

怒っている人のことを理解できない人にもこれを説明して、「じゃあ、日頃怒っているA先輩って人は、水面下にどんな感情があるか、今度教えて」と言うと、割と皆さん考えてきてくれる。「なんかあの人、疲れているかもしれませんね」とか。それで、相手が疲れている時に有効な「傾聴」を教えてあげて、そのA先輩が疲れている時に傾聴のスキルを使って声をかける。そうすれば火消しになりますね。

私はお客様相談室の責任者をやっていた時に怒鳴られることもありました。怒られ慣れてない人は、できるだけ早めにその場を終わりにしようとします。だから、よく分かってないのに「分かりました」と言って帰ってきてしまう。分からないまま対応すると、「前回言ったのに!」とまた怒られてしまう。それは分かっているのではなく、逃げたいだけですね。説明をしただけで、火消しにはなってない。

本の中で「怒りの起承転結」の項目に書きましたが、やはり言い訳と捉えられてしまうので、お客様の心の内側の思いに共感していくことが大事です。その辺りは、カウンセラーは得意なはずです。

~次回は8/16(金)更新予定です!~

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宮本 剛志(みやもと・つよし)

【プロフィール】
宮本 剛志(みやもと・つよし)
一般社団法人日本産業カウンセラー協会シニア産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントトレーニングプロフェッショナル™、株式会社メンタル・リンク代表取締役

教育サービス企業で管理職として、相談・研修・危機管理・コンプライアンスなどを担当。現在は当協会にて産業カウンセラー養成講座協会認定実技指導者・相談室カウンセラー・登録講師、企業・学校にて、研修講師・コンサルタント・カウンセラーとして活躍している。

(取材・文 / 岡澤健治)