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一般社団法人 日本産業カウンセラー協会東京支部
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こころのレシピ

こころのレシピ Vol.12 
カスタマーハラスメントに遭ったスタッフへのケアについて

2021.05.19 kouhou

東京支部では、日常生活や仕事の中のストレスや苦難を乗り越えるための知識や工夫を産業カウンセラーの立場からお答えし、ブログで紹介することで、少しでも皆さんのお役に立てればと考えます。
第12回は、特定社会保険労務士であり、シニア産業カウンセラーとしても活躍する長部ひろみさんの登場です。ぜひご一読いただければと思います。
※相談内容・相談者は、実際に寄せられている内容を加工・編集しており、実際の相談内容をそのまま掲載したものではございません。

【ご相談:Sさん・女性・50代】

接客の仕事をしています。コロナ禍でストレスを溜めている方も多いせいか、イライラした様子のお客様も増えているように感じます。
先日、学生のアルバイトスタッフがお客様に入店時の手の消毒についてご協力をお願いしたところ、気に障ったのか大声で怒鳴りつけられ、さらにお声がけした内容とは無関係の内容、「お前なんかに言われたかねぇ!」「調子に乗るんじゃねぇ」といった罵声を浴びせられるというトラブルが起きてしまいました。
職場には接客中に怒り始めてしまったお客様への対応マニュアルはあるのですが、この時はうまくいかなかったようです。

それ以降、そのスタッフは籍を置いてはいるものの、勤務には入っていません。
現場の責任者は、エリアマネージャーからスタッフのメンタルケアをするようにと指示を受けたようですが、実際には何もしていないそうです。
また、この出来事を知った他の若いスタッフもお客様への手指消毒のお願いは今後も必要なため、不安を感じているようです。

カスタマーハラスメントを受けたスタッフや周りのスタッフには、具体的にどのようなサポートやケアが必要なのでしょうか。責任者に提案をいたしたく、ご相談させていただきました。

(長部)ご相談有難うございます。

コロナ対策のために、来店時の手の消毒をお願いしたスタッフさんが、思わぬ暴言を受けてしまったとのこと。
その影響が他の若いスタッフにも広がっているご様子、心配ですね。「お客様は神様」という精神性は、良いサービスの提供に通じる反面、接客する側の忍従、我慢を生む可能性もあります。

コロナ禍が長期化し、鬱屈した思いを接客にあたる店員等にぶつける方も増えています。
特に社会経験の少ない若いスタッフは、顧客の訴えを必死に受け止めようと、大きなストレスにさらされ、心身の不調をきたす場合もあるでしょう。また放置すれば、他の社員の士気の低下や離職率の増加にも繋がりかねません。

顧客の発言も度が過ぎれば、刑法上の侮辱罪や業務妨害罪などの犯罪に該当する可能性もあります。
また労働契約法第5条により、企業は従業員の安全や心身の健康に配慮する安全配慮義務を負っています。
このことは、カスタマーハラスメント(以下、カスハラとする)に対する場面でも同様であり、企業がカスハラを放置して対策を取らなければ、安全配慮義務違反を理由に、従業員から損害賠償請求をされる可能性もあります。

カスハラに対して企業がとるべき対策・取り組みについて、厚生労働省は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」で、以下の3点をあげています。

① 相談体制の整備
相談先を定め、相談したことによる不利益取り扱いがないことも含め従業員に周知。また相談内容や状況に応じ、適切に対応。
② 被害を受けた従業員に対する配慮、ケア
被害を受けた従業員のメンタルヘルス不調への相談対応。またカスハラと思われる場面では、従業員複数名で対応を行う。
③ 被害防止のための対応マニュアルの作成・研修の実施
カスハラ対応で用いるフレーズや対応フローをマニュアルにまとめ、接客対応スタッフ全員で確認。ロールプレイ等を実施。

したがって、今回被害を受けた学生スタッフさんへの事後フォローは最優先事項となります。
ご本人に現場責任者から連絡を入れ、苦労されたことを労い、体調不良や出社への不安等がないかを確認。
もし不調の訴えがあれば、医療機関への受診勧奨や、休職措置の実施も必要でしょう。

またお店の接客マニュアルに従った対応が難しかったとのことですが、「手の消毒への協力依頼」というのは、コロナ禍前にはなかった局面です。
伝え方や拒まれた場合の対応などを決め、マニュアルに加えましょう。
暴言や不当な要求を繰り返す顧客等に対しては毅然と断り、それでも止まない場合は、会話の内容を録音すること、警察や弁護士に相談することも選択肢です。

こうした緊急対応のフローや判断の責任者もマニュアルに定め、従業員に周知しておきましょう。またカスハラは予期できない事態であるため、接客にあたるスタッフ全員が定期的にマニュアルを再確認し、ロールプレイ等の訓練を繰り返すことも大事ではないでしょうか。

長部ひろみ(おさべ・ひろみ)
特定社会保険労務士・シニア産業カウンセラー・公認心理師・精神保健福祉士。開業社会保険労務士として、顧客の労務管理支援、労働相談に従事する傍ら、企業内産業保健室でのカウンセリング・ハラスメント相談窓口対応、研修講師業務にも従事している。

 

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