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一般社団法人 日本産業カウンセラー協会東京支部
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「アドラー心理学が教える より良い職場のコミュニケーション」セミナーレポート

2017.06.23 初鹿野愛子

2017年3月23日(木)、企業の実務担当者・経営者・管理職を主に対象とした東京支部広報部主催の無料セミナーを開催しました。駒澤大学の八巻秀先生をお招きし、「アドラー心理学が教える より良い職場のコミュニケーション」についてお話し頂きました。セミナーは、講義とグループ討議を交えた形式で進められ、先生のユーモアあふれるお話に、笑いあり、しみじみ考えさせられる場面ありと、大変に盛り上がりました。今回は、セミナーで先生がお話しくださった内容をダイジェストでご紹介いたします。(取材・文/広報部 松崎優佳)

本日は、「よりよい人間関係」を職場で実践・展開するために アドラー心理学 を参考にして「いま何ができるか」を考えていきます。

いま、日本だけにとどまらない「アドラー心理学」ブームが続いています2013年12月発売『嫌われる勇気』という岸見一郎さんが書いた本が火をつけました。

対人関係に早くから注目したのがアドラーです。100年以上前、精神分析が流行っていたフロイトと同じ時期に「人間の悩み・問題は、すべて対人関係の悩み・問題である」と、人間関係の悩みは人間関係と言い切ったのがアドラーだったのです。

相手の心を分析することよりも、自分と相手との関係を調整しようとすることが重要というのがアドラー心理学です。アドラー心理学ではちょっと有名な標語があります。

 

みんなに好かれたいと思うのは幻想にすぎない

みんなに嫌われていると思うのは妄想にすぎない 

みんなに好かれた人は、歴史上に1人も存在しないし、みんなに嫌われた人も同様である、ということです。私たちは、ちょっと元気がなくなると、幻想・妄想が襲ってきますよね。でも、他人は、あなたが気にしている程、あなたに関心がないし、自分のことで精一杯なのです。この標語をいつでも見られるようにし、心の中で唱えてみたらよいと思います。

もう一つ、相性の法則というものもあります。人との相性が、「良い」:「普通」:「悪い」の比率は、どれくらいだと思いますか?

大体 2:7:1と言われています。

つまり、「普通」が多いのです。そして、あなたにとって相性が良い・悪いと思っている他人は、あなたに対しても、同じように思っていることが多いのです。

どんなに頑張っても仲良くなれない人はいます。

それでは、相性が悪い1割の人とは、どう接したらいいか。

ちなみに「しかと」するっていうのは最悪です。「しかと」するというコミュニケーションをとり、「悪い」というメッセージを送っていることになります。相性が悪い人には、普通に話せばいいんです。「おはよ!いい天気だね。」とか。そして、必要以上に相手があなたの方に入り込んでくるようだったら、スーッとこちらから抜けていけばよいのです。こちらからネガティブな情報を流さないのが一番いいです。

さて、人は困難な状況になると次の3つのどれかで思考しています。

①かわいそうな自分・悪い自分

被害者意識(他者排除など)或いは、自分を責める傾向(閉じこもりなど)の思考

② 悪いあなた・あの人

他者責任追求や悪者探しなど、攻撃的な思考

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多くの人が、人間関係において、①や②の考え方(=原因論)に陥ってしまうものです。私はこれを思春期の思考と言っています。大人になってもずっと①や②の思考を持って生きている人、結構いますよね。3番目の空欄が実はポイントですが、これは最後にお話しします。

アドラー心理学が考える「よい人間関係」をつくることについて

よい人間関係を求める際の4つのキーワードを説明します。

(1)リスペクト (2)信頼(3)協力 (4)共感

(1)リスペクトというのは、「re-spect」つまり「再び見る」ということです。相手との関係について「距離を置いて、冷静な態度で接する」ことです。

人はそれぞれに年齢・性別・職業・役割・趣味等の違いがありますが、人間の尊厳に関しては、違いがないことを受け入れ、礼節をもって接する態度を持つということです。

自分にとって関係が難しい相手の持ち味、よいところについて肯定的な意味づけをしてみてください。直接会っている時は欠点ばかりが目につきます。でも、必ず持ち味はあるはずですし、それがよい人間関係の手がかりになるのです。そして、その持ち味を生かすのが職場じゃないでしょうか。持ち味がわからなければクビを切るしかなくなってしまいますよね。それを見つけませんか?という提案なのです。

(2)信頼 (trust)について

皆さん、「信頼」と「信用」どう違うと思いますか?

1番わかりやすいのは、信用金庫はあるけど、信頼金庫はないですよね。アドラー心理学では、常に相手の行動の背後にある善意を見つけようとし、根拠を求めずに一人の人格として無条件に信じることを「信頼」と言います。

「信用」は、条件付きで信じることで、条件を満たさなければ、信じなくて良いという態度です。相手の背後の悪意(さぼるんじゃないかとか)の可能性も想定したり、過去の成果を問うたりするわけです。

ビジネスの世界で信用と信頼どちらも必要です。普段、信用で仕事をしている事が多いと思いますがいかがですか?「信頼」をしていくには、決意と忍耐を伴います。

 

(3)協力について

協力は、お互いの違いを受け入れつつ、みんな対等の存在である「仲間」であると認めることです。仲間関係は大きな関係性であり、目標に向けて仲間と合意ができたら、共に問題解決の努力が出来ます。

ちょっと思い出してください。あなたにとって仲間はどんな人ですか?

親子関係は、特に思春期を越えたら、親子関係は仲間関係になったほうがいいです。いまの世の中、殺しあう親子関係もあるくらいです。無関係、知人関係、憎しみにならず、仲間関係になるのです。

(4)「共感」について

カウンセリングを学んでいる皆さんなら、ご存知かと思いますが、常に相手の置かれている状況、考え方、意図、感情、関心などに関心を持つ、「相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じることが、大切である」。これが共感の定義であるとアドラーは言っています。

では、皆さんにお聞きします。共感と同情は、どう違いますか?

アドラー心理学における「共感」は、相手の関心や状況などに関心を持つこと・リスペクトから始まり、ちゃんとコントロールできている感情です。また、共感される側は陽性感情(心地よさ、安心感、うれしさ等)を感じ、自然と相互信頼の関係が構築されていきます。

「同情」 は、相手の関心や状況などがわかった気になること・憐れみから始まり、コントロールしきれない感情です。そうされる側は陰性感情(惨め、怒り、悲しみ等)を感じます。支配、依存関係、縦の関係になるわけです。

目指すべきは「共感」です。そのためには、同情になっていないか意識することが必要です。

機能価値 存在価値について

機能価値 とは、何をやったか(Doing) を重視することです。この人は会社でどういう風に貢献して何をしたのか、どんな営業成績をあげたか、ということですね。もちろん組織は営利団体ですから目標達成が必要です。みなさん当然意識をしていますよね。

もう一つは、存在価値です。在り方そのもの(Being)を重視することです。存続や安心感を追求する地縁・血縁関係などの価値共同体の基盤となっているものです。

皆さんの職場では、現在の職場の人間関係において、相手を機能価値だけで見ていませんか?

機能価値だけで見るのは当然だという人はいます。「だってそれが企業でしょ」と。アドラー心理学では、そこに存在価値も入れてくださいと言っているのです。

いま『嫌われる勇気』をはじめとしたアドラーの心理学本が売れているのはビジネスパーソンです。私がこれまで30年間アドラー心理学に関わってきた中で、子育てや教育には浸透してきている印象がありましたが、それは存在価値を認めているからです。教育はそうですよね。でも企業は逆だった。機能価値でバンバンやってきた、そして今いき詰まっているのです。

職場において、相手の機能価値を冷静に判断する(信用システムでまわす)ことは大切です。機能価値は信用がベースにあるのです。ここまでやったら信用するよ、ここまでできないなら信用しないよ、というシステムです。いままでの職場はそれで回ることができていました。でも今はそれでは組織も人もダウンしてしまう状態です。企業にも存在価値が必要とされているのです。一人の人間を、無条件で信頼する(信頼システムで人間関係がまわっている)ことが重要なのです。ここが今日一番言いたいことです。

職場(のシステム)としては、「信用システム」を淡々とまわしてください、そして、職場で働く一人の人間として「信頼システム」をまわしてください。

どんなに営業成績が悪くても、例えば一緒に呑みに行く、そしてその人の存在価値を応援する。そうすると、次第に良い影響が出るのです。家族においてはもちろん、職場においても、存在価値をベースに考えてみることが、結果的にその人の機能価値を高めることにつながる。これは結果論です。そして、そのためには、その人の持ち味を見つける。それが、信頼になっていきます。

皆さんにとっては価値観の合わない人でも、その人には生きている意味があるのです。そこを認めてあげてください。信頼システムで応援する。アドラーで言う勇気づけが入るわけです。

「いまできること」を考える

今日のセミナーに、問題と感じている相手を変えたいと思ってきた人もいらっしゃったかと思います。

アドラーでは勇気づけという言葉があります。相手を信頼し、相手に勇気を与えることです。

「ありがとう」「嬉しい」「助かる」が勇気づけの基本言葉です。

これをバンバン言うのです。でもこれ、一番難しいのは家族と言われます。

「いまさら無理だよ」と思う方もいるでしょうね。

無理なのはなぜでしょうか。信頼システムが回っていないと同時に、これらの言葉を使っていないから。家族の間で信頼システムが麻痺してサビてしまっているのです。

職場でもそうです。でも使うとサビはとれますから、言ってみてください。お互いに勇気づけあう関係になっていきます。

さて、先ほどから最後にお話しますと伝えてきたこと、困難な状況で人が思考する3つめの事柄についてお伝えします。

人は困難な状況になると次の3つのどれかで思考しています

① かわいそうな自分・悪い自分

② 悪いあなた・あの人

そして3つ目は、

③ 今、私にできること

この言葉は、主体的・行動的・未来志向的な発想や思考です

他人ではなく、自らの行動を重要視し、周囲の人たちに対して貢献的な考えを持つのです。

つい①②になりがちな自分をいかに③にもっていくか、これが問題状況から抜け出すための大きなポイントとなります。

まずは、自分が①や②に陥っていることを意識・自覚することです。そして 「今できることは何か」 「これからどうするか」と考え続けていくことが、③の考え方を定着させる力になります。

アドラー心理学における「よい人間関係をつくるため」について最後にアドラーの言葉をお伝えします。

「不健全な人は、相手を操作し、変えようとする。健全な人は、相手を変えようとせず、自分が変わっていこうとする。問題は、何が与えられたかではなく、与えられたものを、どう使いこなすかだ。」

人はないものねだりをするものです。自分そのものを活かしていないのです。自分の持ち味を自分で探せたら最高だし、相手からも指摘してもらえたら最高ですよね。

そうし合う関係って素敵な関係だと思いませんか? それがいわゆるアドラー心理学の共同体感覚です。

そんなことは理想論だと思われるでしょうか? でも、できるんですよ。劇的に変わります。

ぜひお互いの持ち味を見つけてください。

 

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【参考文献】

『嫌われる勇気』岸見一郎(ダイヤモンド社)

『スッキリわかる!アドラー心理学』八巻秀(ナツメ社)

『もしアドラーが上司だったら』小倉 広(プレジデント社)

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