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一般社団法人 日本産業カウンセラー協会東京支部
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職場・テレワークで生かせるマインドフルネス

【連載】職場・テレワークで生かせるマインドフルネス
第2回:マインドフルネス瞑想で自分を見つめ直す

2022.02.07 kouhou

コロナの影響が長引き、働き方も変わると言われる今、心と体をどのようにコントロールし整えるか、私たち一人ひとりがとても難しい問題に直面しています。こんなとき取り入れたい「マインドフルネス」について、シニア産業カウンセラーであり臨床心理士でもある大澤昇先生にご解説いただきます。第2回は自分自身を深く顧みることにもつながる瞑想法についてのお話です。

オミクロンが勢いを増している現在、どう生活を支えていけばいいでしょうか?ユングが「人生の正午」という概念で「人生の危機はチャンス」だと述べています。今までの自分を見直す、今まで育ててこなかった自分の領域を育て直す、そんなチャンスのために危機が必要だという考えです。そういう意味では、この間のコロナの時期を自分を見つめ直したり、新たな自分を育てるチャンスだと捉えることも必要です。そのためにマインドフルネスが助けになります。

マインドフルネスが他の瞑想法や坐禅と違ってユニークなのは、生活すべてが瞑想になる、という点です。食べるのも瞑想、歩くのも瞑想、家事も瞑想、動くのも瞑想、カウンセリングも仕事も瞑想になる。今ここでの体験に意図的に意識を向け、心をジャッジしないで観察するのがマインドフルネスなのだから、どんなことをしている時でも瞑想になります。特に、テレワークで仕事に集中するにはメリハリが必要になります。集中力は1時間半が限度と言われているので、仕事の合間に10分程度リラックスする方が効果が上がります。その際マインドフルネスを導入する。できれば、身体を動かした方がいいので、前回紹介した振り子瞑想や歩く瞑想がもってこいです。歩く瞑想とは、漫然と歩くのではなく、仕事や雑念から脳が解放されるように、足の裏に意識を向け続け「1、2」でもいいし、「右、左」でもいいので、リズムをとりながら、意識的に歩くことに集中する。もちろん、雑念が湧いてきたらマインドフルネスの基本通りジャッジしないで観察し、元の動きに戻るだけです。

疲れてくると間食に甘いものを食べたくなります。その際もマインドフルネスの食べる瞑想を応用すると、必要以上に食べるのをコントロールできるし、おいしさを丁寧に味わうことができます。ダイエットにもつながるので、ぜひ試してください。
マインドフルネス研修で好評の干しぶどうの瞑想を紹介します。

究極のダイエット=食べる瞑想 
まずは干しぶどうを3粒用意し(別に干しぶどうでなくても構いません)、一粒だけ手のひらに載せてみます。そして干しぶどうを観察することから始めます。初めて見るようなつもりで観察してみる。この干しぶどうができるまでのプロセスを感じてみるのもいい。ぶどうの木があって、太陽と雨が降り注いでぶどうの実が熟して、農夫がぶどうを摘んで十分乾燥させて、この手のひらにたどり着いたプロセスを想像してみよう。では、指で干しぶどうをつまんでその感触を確かめ、色や表面の状態に注意を払います。こうしていると、干しぶどうやほかの食べ物についてのいろいろな思いが湧き上がってくるかもしれません。好きとか嫌いとかいう思いや感じも生まれるかもしれません。もちろん、ジャッジしないで、気づいたら干しぶどうの観察に戻ります。次に干しぶどうを鼻に近づけしばらく匂いをかぎます。最後にうまく口に持っていくために腕が手を持ち上げ、心と身体が食べ物を予期して唾液を出すのを意識しながら、唇に干しぶどうを載せます。そしてゆっくりと口に入れ、一粒の干しぶどうの本当の味を確かめながらゆっくりとかみしめます。十分にかんだら、飲み下すときの感触を確かめながらゆっくり飲み込みます。飲み込むという行為でさえ意識的に体験できます。飲み込んでしまうと、自分の身体が干しぶどう一粒分だけ重くなったような気がするかもしれません。同じように、あと二粒をたっぷり時間をかけて十分に味わってみます。

この食べる瞑想は、実は究極のダイエットになります。コロナ下でどうしても体重の増加が気になる方も多いと思います。3食食べる際このマインドフルネス法を実施して、3か月で5キロ痩せた人が何人もいます。ゆっくり味わうには自然とたくさんかむ。そうすると脳の食欲をコントロールする中枢が「もう十分」という指令を出すので、少ない量で満足し、しかも普段以上においしく感じられるというわけ。一石二鳥です。

テレワークを機に禁煙や禁酒に取り組むにも、マインドフルネス瞑想が効果的です。禁煙セラピーでは、一本の煙草をできるだけゆっくりと意識的に味わい尽くす瞑想を繰り返すことで、何となく無意識に吸っていた習慣から解放されます。禁酒も無理やり止めようと頑張ってもなかなかうまくいかない。むしろ逆に、一杯のビールを10分かけてじっくりと意識的に味わい続ける瞑想を重ねることで、飲まずにいられないという衝動や欲望から少しずつ解放されます。

コロナ下が新たな自分を作り出すためのチャンスになります。河合隼雄さんが「うつはクリエイティブ・イルネス、創造性のための病」と言っていましたが、コロナがクリエイティブに生きるためのチャンスになればいいですね。

2020年の統計で、自殺者が激増していますが、その背景にはテレワークや職場のストレスからくるうつがあると言われています。うつが怖いのは本人の意思でなく、脳の作用によっていつの間にか死にたい気分にさせられてしまう点です。うつを予防するためにはマインドフルネス認知療法が効果的です。

<マインドフルネス認知療法>

1) 背筋を真っすぐにしてリラックスする。
2) 自分の身体の内部を感じてみよう。皮膚で包まれている身体の内部全体を感じ続ける。
3) 呼吸を意識しよう。吸う息、吐く息に伴って動くお腹へ気づきを向ける。そして、お腹が膨らんだ時に「ふくらみ」、縮んだ時に「ちぢみ」とつぶやく。雑念に気を取られたのに気づいたら「雑念、戻る」とつぶやいて、お腹への意識に戻る。雑念や感情をジャッジしないで気づいて戻るだけ。
4) ある程度落ち着いてきたら、気づきを拡げていく。呼吸に気づきを向けながら全身の感覚をも含めていく。そうすることでより広い範囲への気づきが持てるようになる。全身の感覚に気づきを向けて、全身で呼吸しているかのように、呼吸をたどる。さまざまな思いや感情が湧いてきたら気づいて、そっとしておいて、身体の内部全体を感じ続ける(10分~20分)。

実はマインドフルネスには批判もあります。そもそも座禅やマインドフルネス瞑想は、本質的には自己へのとらわれから離れるためにある。ところが今流行りのマインドフルネス瞑想は、とらわれからの解放ではなく、何かを得るため、つまり健康や成果や幸せをGETするためになっている。本来の仏教は、GETではなく、GIVEです。エゴを滅して、他者へ慈悲を施すわけですから、そんな批判が仏教界から出てきたのは当然です。自我を肥大化してしまう恐れすらあるからです。なので、マインドフルネス瞑想の良心的な指導者は、その辺を踏まえながら<慈悲の瞑想>を取り入れたりしてバランスを取りつつあります。

<慈悲の瞑想>

1)困っていたり、苦しんでいたりする対象を決める。身近な個人やクライエントでもいいし、もっと広い対象でもいい。例えば、飢えて苦しんでいるすべての子供たち、原発でいまだに自宅へ帰れない人たちなど、自分が少しでも慈悲を与えて助けたいと思う人たちを選んでみる。
2)その対象を明確にイメージし、彼らの苦しみをしばらく感じてみよう。
3)鼻から息を大きく吸いながら、彼らの苦しみが自分の中に入るようイメージする。
4)その苦しみをお腹に集めて慈悲の光で包み込み、苦しみが溶け去るようイメージする。
5)その対象に向かってゆっくり深く息を吐きながら、慈悲の光が彼らを包み込むようイメージする。

この呼吸法を10分から20分繰り返す。すると不思議なことに、相手が慈悲の光に包まれて少しずつ癒されていくのが何となくイメージできます。そして、自分のエゴも少しずつほどけていくのが分かるようになります。日常生活に忙しくていつもこんな瞑想はできないかもしれないけれど、余裕のある時には、普通のマインドフルネス瞑想の後にでもぜひとも試してください。コロナ下だからこそ、自分の幸せ、静けさだけでなく、困って苦しんでいる人たちの幸せを願うことがすごく重要になってきます。自分が成長するチャンスにしてください。

<文>
グロービス経営大学院大学講師 シニア産業カウンセラー 臨床心理士
大澤 昇

 

 

【大澤昇先生の著書紹介】
『心理臨床実習』『心理臨床実習ストレスマネジメント篇』『やすらぎのスペース・セラピー心と体の痛みがあなたを成長させる』