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一般社団法人 日本産業カウンセラー協会東京支部
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セミナー・研修

【セミナーレポート】今どきの若手社員の心理と「人薬」の効能

2017.01.23 代々木ブログ編集者

2016年11月21日(月)、企業の実務担当者向けに広報部主催の無料セミナーが開催されました。
今回はその内容をお届けします。

テーマは
『今どきの若手社員の心理と
「人薬(ひとぐすり)」の効能』。

講師は、思春期・青年期の精神病理学に詳しい、
筑波大学 医学医療系 社会精神保健学 教授・精神科医の斎藤環先生にご登壇いただきました。
当日は、定員を超える97名の参加者が集まり、テーマに対する興味・関心の高さがうかがえました。


「人薬」

セミナーのキーワードである、「人薬」という言葉。
初めて目にする方もいらっしゃると思います。
斎藤先生によると、「人薬」は、こらーる岡山診療所(精神科診療所)の代表・山本昌知氏の言葉。
一般の民家を解放した診療所に集う人々が好きな場所で寝そべったり、おしゃべりしたりという独特の空間の中で自然なコミュニケーションが生まれ、緩やかな相互承認、対人刺激が治療的価値=人薬となるということです。

講演の中では、今どきの若者における、モラトリアム期間の長期化による未成熟化やコミュニケーション偏重主義(スクールカーストやいじめの変質)、職場における対人ストレス要因の増大など、その心理を生み出したと考えられる背景について、臨床経験やデータを用いながら具体的にお話しくださいました。

また、中高年世代から見た若者世代のイメージとして、「ストレスに打たれ弱い」「社会性に乏しい」「マニュアルがないと動けない」といった印象がよく聞かれますが、その傾向を理解するための視点についても示していただきました。

 

今どきの若者を理解する3つのキーワード

◯「承認欲求」
斎藤先生のお話では、「中年世代と若者世代には、就労動機の変化がある。」ということです。
中年世代は、「食べるため」というのが一般的であるのに対し、
若者は「承認されるため」という意識傾向が強いというのです。
希望の大学や会社に入ることができなかった挫折体験は、自身の存在価値の否定にもなりうるそうです。
就職活動を始めてから、本気で死にたい、消えたいと思ったことがあるという学生が21%に上るというデータもあります。
(NPO自殺対策支援センター ライフリンク代表 清水康之氏 視点・論点「“就活自殺”の背景に迫る」より)

◯「コミュニケーション偏重主義」
現代の企業では、採用時にコミュニケーション能力を重視する傾向にあったり、
コミュニケーションが不得意な人を「発達障害」「アスペ」などレッテル貼りをする世の中になっていること、
周囲からそのようなレッテル(ラべリング効果)を受けると、不思議なことに本人たちもそのレッテルに合わせた行動を取り始めると危うさがあることにも触れられました。

◯「変化の不信」
加えて斎藤先生は、幸福度は高いものの、
社会が今よりも良くなると思えないといった、未来に希望が持てない若者が増加しているということも挙げていました。
その見方は、自分の能力や性格に対してもあり、自分は今後も変わらないという、「変わらなさ」への確信を持っていることを臨床の現場で感じられているそうです。

以上のような、「承認依存」、「コミュニケーション偏重主義」、「変化の不信」が、今どきの若者を理解する3つのキーワードであると紹介してくださいました。

 

若者や部下への指導

そこで、若者への指導の場面では、
コミュニケーションスキルや承認に影響するような叱責・注意は、本人の自尊心を傷つけたり、落ち込みや陰性感情を増幅させることにもなりうるため、適切な声かけのポイントが必要であることを斎藤先生は示してくださいました。

さらに、部下指導において信頼関係の構築は、普段からの接し方が大切であり、「受容、傾聴、共感」というカウンセリングマインドの重要性を挙げられました。

セミナーの後半には、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の視点から、多様なコミュニティのあり方を挙げられ、人薬(社会関係資本)に注目した治療支援の有用性についてご紹介くださいました。
人間関係はストレスの原因にもなるが、治療薬にもなることや、
人薬は、承認を通じて自己愛を補強し、
それを通じてレジリアンス(脅威や悪条件を乗り越えていく力)を高める効果を持っていることなど、
人薬の効能について挙げられ、ご講話は締めくくられました。

参加者からは、

・若手がどのように感じ承認を求めているということが分かり参考になりました。接し方のポイントがすぐに実行に移せそうです。

・上司世代と部下世代の考え方の違いがよく分かりました。新人研修や管理職研修などに取り入れたいと思いました。

・若者の考え方(承認依存、コミュ力偏重、変化への不信)は初めて伺ったが説得力があり関心を持った。周囲の関係者と議論してみたいと思った。”ひとぐすり”という言葉もCatchyで印象に残った。

など、現場ですぐに活かしていきたいという感想が多数寄せられました。

斎藤先生の大変有意義なお話を通じて、私自身も「人薬」になりえること、産業カウンセラーとして今自分にできることはまだまだあると強く感じることができました。

(取材・文/広報部 松崎優佳)